Short Story

【Short Story】「風の旅」

ショートストーリー
【風の旅】

 

風には2つの誇りがあった。

 

なんでも吹き飛ばす強い力があること。

そして限りなくどこまでも行けること。

 

 

風は
いく先々でいつも自慢の言葉を残していた。

「ハロー!」
「どうだい、俺にかなう奴がいるかい?」

「ハロー!」
「俺はだれより強いし、
なにより軽いフットワークがあるんだ」

 

 

花や虹は

「そうね、あなたはすごいわ」

「きっとこの世界であなたほど
身軽な旅人はいないわ」

と少し哀しい声で応えていた。

 

 

風はいつも思っていた。

どんな強いモノも
時間が経てば必ず風化して
朽ち果ててしまうものだと。

 

モノは儚いのだ。

 

永遠に崩れないモノなど、1つもない。

 

 

 

風は
一度にずっとその場所に留まることは
性質上できない。

 

旅の途中で出逢うモノたちは
どの旅人より遥かに多いだろう。

 

しかし出逢ったが最後
すぐに離れ離れの『一期一会』だ。

 

 

ある時

風は
砂漠で砂を巻き上げながら
サボテンにこう言った。

 

 

「ハロー!んじゃ、サヨナラ」

 

サボテンは、ぼそっと応えた。

「お前さん、からっとしてるね」

 

 

からっとしていなきゃ
『風』は勤まらない。

 

だいたい重たいモノなんてお荷物なのだ。

 

それに、出逢った瞬間別れるのに
いちいち涙ながして
別れを惜しむなんてできない。

 

 

「ハロー!じゃあな!」

これくらい軽いテンションでなくては
『風』も勤まらない。

 

 

風は確かに
だれより強いように見えたし
どこまでも行ける身軽さがあった。

 

 

だが風は知らなかった。

 

 

自分の寂しさを、知らなかった。

 

 

 

どうやら地上では
そのモノとの繋がりがあるモノがあり
何時間でも会話ができて
また会える歓びがあるらしい。

 

自分で動けない花でさえ、
蜜を吸いに来るミツバチとのおしゃべりが
楽しみだと言っていた。

 

 

風には
来るモノも居なければ
去るモノも居なかった。

 

 

何者とも繋がりがなかった。

 

 

風は気付いていたけれど
気付かないふりをしていた。

 

 

 

 

「この世のものは全て風化されるのだから」