雨だ。
突然暗くなった重たい空が、これからもっと降ることを指し示していた。
慌ててすぐそばにあったローソンに雨宿り。
ローソンのスカイブルーの屋根に守られながら、同じように屋根ある場所へ駆け込んでいく姿たちを見た。
通り雨のようだし、すぐ止むに違いない。
衣服についた雫を払いながら、もう一度、重い雨雲を見上げてみると、大粒の雨が降り注いできた。
やっぱり。
そう思った次の瞬間、灰色に光るゴツゴツとした石のようなものが降ってきた。
手のひらサイズの大きさだった。

ゴツン。
ゴツン。
鈍く重い音が聞こえ、「当たらなくてよかった」と思った。
周りを見渡してみると、その石に当たっている人は一人もいないようだった。
よかった。安心した。
不意に、雨が終わりを告げた。
みるみるうちに空の色が戻っていく。
濡れた地面に、太陽の光が反射し始めた。

天から降ってきた石たちが太陽の下に晒され、怪しく光っている。
黒曜石にも見える。
小学生の頃、新築のマンションの下で見た、あの石。
不思議なことに、地面に散らばることなく、小山のように積まれていた。
自分の体半分ほどの石の小山が、あちらこちらにあった。
まさか、隕石・・・?
わたしは近づいて、それを真近に見た。
手にとってビックリした。
石だと思っていたソレは、石ではなかったのだ。
よく見ると、それぞれが違う姿形をしていて、わたしが手にとったものは、文字らしきものが描かれてる土偶のような彫刻だった。

しかも、ものすごく、軽い。
木彫りなのだろうか。
よく見たら、オークカラーだった。
確かに降ってきた時は、ダークグレーだったのに。
二個ほど手にとったが、それぞれが違う形をした「何か」だった。
重さもエネルギーも違うように思えた。
とてもではないけど、言語では形容しにくい「何か」だ。
貴重なものなはず。
持って帰ろうと思ったが、なんとなく、持って帰ってはいけない気がした。
「これはっっ!!誰にもっっ渡さないっっ!」
5メートルほど離れた場所にいた小太りの男が、小山にかぶさってうめき声で叫んでいた。
異様な光景だった。
貴重なものだから高く売ろうと思ったのかもしれない。
ほとんどの人が、自分のカバンや服のポケットに石を詰めていた。

わたしは手にとっていた「何か」を小山に静かに置いた。
日頃から「なんとなく」に従うようにしている。
直感はいつも正しいから。
熱気を感じて振り返ると、スポットライトのような強烈な光が現れた。
女性の宇宙人が立っていた。
腰まである長いブロンドに、ウェーブがかった髪、紫の瞳。
声には、透き通った純粋な美しさがあった。
気づけば、われわれ地球人は知人も初対面も関係なしに、互いの腕をとり、直線上に陣を組んでいた。
なんのためにかはわからない。
わたしは正面よりやや右側で、宇宙人を見ていた。
前代未聞。空前絶後。
頭にそんな言葉がよぎった。

女性の宇宙人がこう言った。
「あなたたちに贈り物があります」
決して大きな声ではないのに、全員に聞こえたようだった。
胸にスッと入ってくるような、真っ直ぐとした、声。
プールで使うビート板のようなものに乗った宇宙人が、無作為に贈り物を渡していく。
わたしは3番目にもらった。
例によってビート板男(インド人のような顔立ちに、金髪の花輪くんヘアーだった)が、迷うことなくわたしめがけて来て、贈り物を渡すと一瞬で円盤へ戻っていった。
どういう基準で贈り物が選ばれ、贈り物を渡す人が選ばれているのだろうか。
もらえない人もいるのだろうか。
もらったとして、何に使うためなのだろうか。
非日常的すぎることが続き、わたしはもっと長く見ていたかった。
好奇心がそそられるからだ。
しかし、実際には、唖然としながら、受けるがままに贈り物を受け取っていた。
宇宙人からの贈り物。
自分の手のひらに視線を落とすと、それは、
缶の入れ物だった。

円盤型のフタ。
水色のパステルカラー。
フタはパカッと簡単に開けることができて、底はシルバーだった。
まるで手のひらサイズのUFOだ。
?何これ?
?いったい、何に使うの?
そこで夢から覚めた。
心臓がうるさく鳴っていた。
どうやらわたしは息を呑んでいたらしい。
慌てて息を深く吸い込んだ。