Short Story

【Short Story】「名もなきストーリー」

名もなきストーリー

 

信号機のない交差点で
盲目の女性が渡ろうとしていた。

 

過去何度かこうして盲目の方を
案内させてもらったことがあるが、
未だ「アメリ」のような案内はできていない。

 

声をかけて一緒に渡り、
彼女はわたしに感謝してくれた。

 

「近くまで送りましょうか?」

と聞いてみたけれど、
もう近くだから大丈夫です、と穏やかに断られた。

 

分かれると、
彼女は白い杖を持って
恐る恐るまた歩き出していた。

 

脳内でいろんなことが駆け巡った。

 

「突然話しかけて怪しくなかったか」
「もっと力になれたのではないか」
「わたしにできることは全てしたか」

 

 

 

 

なんだか泣きたくなった。

 

正しいと信じたかった。

 

 

でも、最後の質問には
YESとキッパリ言えない気がした。

 

 

心臓がキュッと
鷲掴みされたような気がした。

 

不安定な空から
ひと雫、またひと雫、と
ポツポツと雨が降ってきた。

 

彼女が今よりさらにスムーズに
今よりさらに歩みやすくなるように
幸せを祈った。

 

 

 

 

 

 

空はまだ答えてくれていない。